もう日が暮れる頃、いつもお世話になっている機屋さんの工場の中に入ると、ぽうっと暗闇の中の奥に灯りがついていて、おばあさんが糸の中にいた。 経糸を繋ぎ合わせる糸繋ぎの作業をされていた。手際よく糸と糸に白い粉をつけていて、何をつけてるんですか？と聞いたら、「胃薬の粉を水でといたものがいいのよ、昔はタバコの粉とかライオンっていうねぇの歯磨き粉の粉でやってたりもしたのよ。お嫁に来た頃、独学でやり方を覚えてね、それからずっとこうやってるのよ。」と教えてくれた。 今期織ってもらったのは、豊かに鳳凰たちが舞う花鳥風月。繊細なジャガードは経糸をかけるだけでも途轍もない時間がかかる。この地でも糸繋ぎの作業はできる方が数人しかいないそう。 何度も訪れているけれど、私も初めてみた光景。織機の中にはいって作業する後ろ姿が、糸の繭に包まれてるようで美しくてずっと眺めていた。 #thestorybymame